人口減少と高齢化が加速するわが国において、自治体の行政機能の維持は深刻な課題となっている。とりわけ地方の中小規模の自治体では、財政基盤の脆弱化や専門人材の不足が同時に進行し、かつ地域コミュニティの担い手不足も顕在化し、従来型のあり方では立ち行かないという危機感が広がっている。こうしたなか、自治体と企業など民間セクターとの連携が叫ばれて久しいが、その官民連携のあり方自体を根本から問い直す時期に来ているのではないだろうか。

これまでの自治体と民間セクターとの連携は、大きく2つの類型に整理できる。ひとつは、自治体が予算を措置し、民間に業務を委託する「行政主導・行政予算型」である。各種の委託事業や指定管理者制度がこれにあたり、自治体が発注者、民間が受託者という明確な関係づけがなされる。受託側の自主性の拡大や、BCP対応やDX推進の文脈で委託範囲の拡大などが見られるものの、自治体が企画立案と予算確保の権限を握り、民間はその枠内で動くという基本構造は変わっていない。
もうひとつは、企業が自らのリソースを投じて地域貢献活動を行い、自治体がそれを受け入れる「民間主導・民間負担型」である。CSR活動や包括連携協定に基づく取り組みの多くがこれに該当する。東日本大震災をひとつの契機として、CSV(共通価値の創造)の考え方が浸透し、社会課題の解決と事業利益の両立を志向する企業の動きは広がった。だが、こと自治体との包括連携協定の実態を見れば、協定は結んだものの、一過性のイベントで終わっている、あるいは具体的な取り組みにつながっていないという形骸化も指摘されている。基本構造として、予算不足にあえぐ自治体が民間のリソースと意思決定に依存している関係が見え隠れする。
他にも、スマートシティ共同推進体やデータ連携プラットフォームなどに見られる「共同主導・共同推進型(協働プラットフォーム型)」や、各種の社会実装実験やオープンイノベーションプログラムなどに見られる「共同主導・民間負担型(リビングラボ型)」なども類型化は可能である。ただ、国の補助金獲得が隠れた目的になっている場合も少なくなく、好事例が抽出された後にフェードアウトしているケースが散見される。加えて、協働を支える制度的・人的基盤が相対的に弱いため、持続性において構造的な脆さを抱えており、官民連携の主要な位置を占めるには至っていない。
また、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)のように新たな枠組みも模索されているものの、わが国では成果連動型委託または補助の域を出ず、広がりを欠いている。なお、企業版ふるさと納税も新たな官民連携のかたちのように思われがちだが、企業はあくまで寄付者であり、その寄付金のほとんどは自治体に移転された国の税収であるのが実質で、さらに企業が事業の企画・執行に直接関与することは制度上できないため、純粋な官民連携とは言い難い。
こうした現状に、既存の制度・組織の論理にそのまま乗る形態であることも相まって、官民連携の現場では「行政主導・行政予算型」と「民間主導・民間負担型」が大半を占めている。そして今日、この双方が構造的な限界に直面している。前者は自治体の財政事情により予算確保が厳しくなり、後者は人口減少に伴う地方市場の縮小により地域選好が強まりつつあり、それぞれに自治体間の格差が広がっている。

では、これらに替わる「第三の道」は存在し得るのか。私は、自治体が企業と住民との間の「媒介者」の役割を果たすモデルに可能性を見出したい。企業は自社の製品やサービスを地域課題の解決に資するものもとして供給し、住民や地域運営組織等がそのサービスの利用者・受益者となる。自治体は両者の間に立ち、地域課題解決の方向づけ、適切な製品・サービスの選定と住民側への橋渡し、それら製品・サービス利用がもたらす成果評価の役割を担う。いわばBtoCの応用版として、供給者たる企業と需要者たる住民・地域運営組織の間に、公共的な媒介役たる自治体が介在するモデルである。こうしたかたちは、既に再生可能エネルギーや高齢者福祉、移動支援などの一部に実例が見られる。
このモデルの利点は、自治体が投入すべき資源が「予算」や「人員」ではなく、「公共的判断力と住民との信頼関係」である点にある。財政力や人的資源の自治体間格差は容易には埋まらないが、住民との近接性や地域事情への深い理解は、中小自治体がむしろ優位に立ち得る資源である。また、自治体が課題解決の方向づけや達成度を測り住民側と共有することによって、単なるサービスの消費にとどまらない意識的な行動変容を促す基盤にも成り得る。これは、健康増進や介護予防など個人の自発的行動だけでは十分な成果が得られにくい領域で、とりわけ大きな意義を持つだろう。企業など民間セクターにとっても、自治体によるニーズの集約と信頼ある情報伝達経路の提供は、個別には採算の合わない小規模分散市場へのアクセスと収益化の確度を高めるとともに、一方的な社会貢献に依存しない相互便益の関係を築く道を拓くものとなる。
言うまでもなく、自治体が媒介者として機能するためには、マーケティング的思考やデータに基づく成果評価能力などについて、さらなる力量が求められる。特定のサービスを橋渡しすることに伴う、公正性と中立性の担保も欠かせない。多様化・複雑化する行政運営のなか、これらの課題は決して軽いものではない。
だからと言って従来型の連携に留まるようでは、行政サービスの縮小と地域社会の衰退が高い確度で訪れることもまた、もはや予測ではなく現実の趨勢である。
自治体が「お金を出す主体」でも「事業を実施する主体」でもなく、あるいは「民間に依存する客体」でもなく、「公共的な判断を行う媒介者」として自らを再定義すること。この転換の中にこそ、人口減少社会における地方自治の新たな存在意義が見出されるはずである。
生涯健康社会推進機構は、こうした機能を単独で担うことが困難な自治体に伴走し、協働し、それぞれの地域の特質を的確に捉えながら、民間企業とともに地域課題の解決に取り組むことをめざしている。縮みゆく現実を乗り越えるべく、地域生活と行政運営の新たな地平を切り拓いていくための一歩を、ともに踏み出していこうではありませんか。
執筆:熊谷 哲
生涯健康社会推進機構 エグゼクティブ・フェロー
一般社団法人 構想日本 シニアフェロー
元 内閣官房行政改革審議官/内閣府規制・制度改革事務局長
