生涯健康社会を本気でつくるために

生涯健康社会推進機構 顧問
在宅診療医師 前松阪市長 山中光茂
健康まちづくりフォーラムに参加されている皆さま、本機構の顧問を務めております山中光茂と申します。10年前に松阪市長を退任してから、江戸川区で在宅診療所を運営しています。
以前は市長として行政の現場に携わり、今は在宅診療の一人の医師として、また民企業を運営する一人の企業人として、毎日「一人ひとりの人生」と向き合う仕事をしています。
行政の中から社会を見てきた視点と、医療・生活の現場から社会を見つめる視点。その両方を経験していた今、このフォーラムで皆さまと共有したい思いがあります。
それは、
「中立性や公平性を大切にしながら、その先に進む覚悟を、官も民も持てているか」
という問いです。
中立性・公平性は、行政の最大の価値である

まず大前提として、行政としては中立性・公平性は、何よりも尊重されるべきものであり、それがあるからこそ、住民もサービスを安心して受けることができます。
民間企業側としては、その信頼感と住民への訴求力を自分たちの持つ独自の力と連動したいという思いをいつも持っています。一方で、「特定の企業だけが優遇されていないか」「そこに企業が関わることで住民に不利益が生じていないか」そうした疑念を生み出さないことも、行政が果たさなくてはいけない役割でもあります。
市長をしているときには、いろんな企業とつながるときには首長として「最大限の慎重さと謙虚さ」を持ちながら、その企業の優位性をなんとか使いたいという葛藤を持っていました。中立性や公平性を守ることは、決して形式的な作業ではなく、住民からの信頼そのものだったからです。
しかし、その枠がジレンマになる瞬間がある
一方で、その「中立性・公平性」という大切な価値にこだわりすぎることで、別の問題が生じることもあります。
それは、スピード感の欠如、そして住民の幸せに直結しない意思決定です。
行政側が守るべき制度としては正しい。行政職員が判断する手続きとしても問題はない。しかし、住民側の現場の困りごとは待ってくれない。
「前例がない」
「公平性を欠く可能性がある」
そうした理由で立ち止まっている間に、支援が届かず、住民の生活が苦しくなる場面を、私は数多く見てきました。
ここに、行政が抱える本質的なジレンマがあります。
「中立性・公平性」という絶対に守るべき価値があるからこそ、どうしても動けなくなる瞬間も出てきてしまうのです。
そのジレンマを越えるために必要な「連携」と「覚悟」
このジレンマを解決する魔法の答えはありません。安易なトップダウンでの特定企業の優遇は、明らかに行政の信頼を損ねることで、中長期の行政運営に大きな支障が出ます。
しかし、ひとつ確かなことがあります。
それは、
官と民が、互いの役割を理解した上で、本気で連携すること
そして、
行政側が「やらない理由」「やれない理由」ではなく「どうすればできるか」を考える覚悟を持つことです。
民間には、行政にはない柔軟性やスピード、現場感覚があります。
一方で、行政は「面」で住民を支える力を持っています。
どちらかが主役になるのではなく、互いの強みを前提に役割分担すること。
そこにこそ、連携の意味があります。
民間にも求められる「公益性」への本気度

ただし、この話は行政だけの覚悟で成立するものではありません。
民間側にも、同じだけの覚悟が求められます。
もし民間が、
「どうすれば補助金や交付金をうまく取れるか」
「公と組むことで自社の利益を最大化できるか」
という狭い視点にとどまってしまえば、連携は必ず歪みます。
それはやがて、
「やっている感」だけの事業、「成果が見えない」取り組み、「なんちゃって公益感」での自己満足、つまり、自治体も企業も「公益性っぽくした」というアリバイづくりだけの事業になってしまいます。
民間こそ、改めて「公益性とは何か」を真剣に考える必要があります。
この事業は、住民の生活を本当に良くしているのか。
このサービスは、社会の持続性に寄与しているのか。
住民からの税金を特定の企業にあえて使うだけの絶対的な公益性と差別化ができているのかという問いに常に向き合わなくてはなりません。
その問いから逃げないことが、民間側の信頼を高め、結果として持続的な価値を生み出します。安易な行政のトップダウンが特定企業の利害関係と結びついてしまう、「薄暗い癒着」ではなく、誰にでも堂々とその連携の素晴らしさを示せる「明るい癒着」でなくてはならないのです。
「公益性」から見えてくる、本当の需要
このフォーラムが果たすべき役割
生涯健康社会推進機構がつくる「健康まちづくりフォーラム」は、様々な取り組みを行う自治体のリーダーと、特徴的な個性と実行力のある企業の皆さまが同じテーブルについて議論し、実践していくプラットフォームです。
ここでは、
「行政としての中立性をどう守るか」
「企業と民間が考える公益性をどう共有し、実現していくか」
「活動そのものが住民の幸せにつながっているか」
そうした本質的な問いを、具体的な事例に基づき、徹底的に議論してほしいと願っています。
明るく、誠実に、覚悟をもって連携する。その「明るい癒着」の積み重ねこそが、生涯健康社会への確かな一歩になると、私は信じています。
皆さまにとっての2026年が、そして皆さまが現場にかかわる中での地域住民の皆さまが幸せと笑顔で輝く一年になりますことを心から祈っています。
執筆:山中 光茂
生涯健康社会推進機構 顧問
しろひげ在宅診療所 院長
前松阪市長
