
宮城県の最南端、蔵王連峰の東麓に位置する白石市。人口減少が進み、財政も決して豊かとはいえない同市は近年、大胆な舵取りを見せています。年10億円を超える赤字を抱えていた公立刈田綜合病院の公設民営化、施設整備と長期の管理運営を一体で進める防災道の駅のPFI事業、廃校を活用した大学院大学の設置構想──いずれも民間との協働が前提です。
家業のクリーニング業から白石青年会議所の理事長を経て、市議会議員を3期。平成28年に白石市長に就任した山田裕一氏は「行政も経営だ」と語ります。令和8年4月には、民間の提案を分野問わず一元的に受け付ける「未来戦略課」を新設しました。 市として民間に何を託し、何を託さないのか──健康まちづくりフォーラムが山田市長にお伺いしました。
1、まちづくりの軸
「行政も経営だ」──民間の視点を市政に取り込む
事務局:家業を継いで経営に携わったご経験は、市政にどう生きていますか。
山田市長:民間最大の強みはまず、「スピード」です。意思決定から実行に移すまでのそのスピードの速さは、行政ではなかなか真似ができません。だからこそ私は、「行政も経営しなければならない」と考えています。生産年齢人口が減れば地域の担い手も少なくなり、地域経済の疲弊を招くでしょう。この危機を打破するため、民間の意思決定の速さを行政に取り入れることができないものかと、常日頃から考えてきました。
白石青年会議所での10年間の経験は、非常に大きかったですね。様々な経営者の方からお話を聞かせていただき、接点を持てました。あの経験がなければ、今の私はありません。民間から見る視点と行政から見る視点は違います。行政の課題を解決するには、「経営する」という視点に立つことが本当に重要なのです。
2、官民連携の構想
年10億円の赤字補填を、1.8億円の指定管理料に激減させた病院改革──「距離感と緊張感」が生む相乗効果
事務局:山田市長が就任した平成28年、白石市は東北財務局の財務調査で厳しい現実を突きつけられました。特に深刻だったのが病院の赤字補填です。市の予算から充てられる補助金繰出比率は11.6%と、同規模73自治体の中で最下位(平均1.6%)。白石市の財政負担の重さは突出していました。こうした背景から、公立刈田綜合病院の改革は2期目の最重要公約となったわけですが、当時の状況について改めてお聞かせください。
山田市長:一番苦しかった時期は、病院の運営費の赤字が毎月8000万円から1億円。年間で10億円を超えていました。そういった赤字補填をする際には、国や県からの補助金は1円もありません。もし、仮に10億円を別の事業の財源として確保し、国や県からの補助金も活用すれば30億円規模の事業ができることもありますから、赤字補填のためだけに支出する10億円は非常につらいお金です。
当時、病院は白石市と蔵王町、七ヶ宿町の1市2町の組合で運営しており、本市の負担割合は86.7%。病院改革に対する両町のご理解をいただくまでに3年以上かかりました。最終的に組合を解散し、白石市が単独の市立病院として運営する──その手法として公設民営化、指定管理者制度の導入を選び、令和5年4月から運営を開始し、今年4月で4年目に入ります。
事務局:内部の反対はありませんでしたか。
山田市長:正直、庁内からも厳しい本音が上がってきました。公立病院の公設民営化は前例がないので、事務量も分からない。そういう事業に職員を割いて職務命令を出すのは非常に難しい、という声です。
ただ、私は市民から直接、選挙で選ばれた人間です。「この決断は私にしかできない。必ず成功させるから、信じてついてきてほしい」。当時の幹部職員にそう話し、理解を得ました。医療は市民の命と健康に直接関わる分野です。やり方を180度変えるには、とてつもない労力が必要でした。

公立刈田綜合病院
事務局:公設民営化の成果は、どのように表れていますか。
山田市長:今現在、指定管理料としてお支払いしているのは、年間1億8000万円です。10億円を超える赤字だった病院が、この金額で運営できるようになりました。しかも救急の受け入れは約2倍となり、病床稼働率も最低の時期は40%台でしたが、いまは毎月90%を超えています。住民の皆さんからは「病院全体の雰囲気を含め本当にいい病院になった」と言っていただいています。
ただ、私自身が一番驚いているのは、病院の「変化」です。これは医師や看護師がガラッと入れ替わった、という話ではありません。変わったのは、病院長の経営方針です。「組織はトップ次第」が私の持論です。組織のトップというのは、社長のみを指すわけではありません。部には部長、課には課長、それぞれの立場での責任があります。その方々がどういう思いで組織を牽引していくかが、非常に大きいと感じています。そして、この動きは明らかに民間の方が強いです。組織の統率力、一体感、マネジメント。人は同じでも、トップが変わったことで経営がガラッと変化した──私はそう受け止めています。
事務局:官民連携で心がけていらっしゃることはなんでしょうか。
山田市長:民間の皆さんが、より柔軟な発想ができること。それが非常に重要だと思っています。ただし、丸投げは絶対にダメです。
行政の事業に民間の方が入ってくださることは、企業においても大きな意味があると考えています。市民福祉の向上という仕事には社会的な責務が生じ、それを実行することで企業価値も高まるものです。だからこそ行政は、決して丸投げをせず、モニタリング(進捗管理)を行わなければなりません。だからといって、企業の利益を厳しく制限すれば、今度は自由度が失われてしまうでしょう。そこは“さじ加減”が重要なのかなと思います。
「民」の力を最大限、行政が取り入れさせていただく。その距離感と緊張感。これが官民双方にとってウィンウィンの関係になる秘訣なのだと思っています。
現在整備中の「道の駅しろいしZAO」も、施設の整備と15年間の管理運営を合わせてPFI事業で進めています。行政はハード面を整えられますが、重要なのは、そこに魂を入れ、住民のニーズに応えていくことであるはずです。民間事業者の力を最大限活用すれば、行政だけでやるよりも、必ず良い結果を生み出せるはずです。 また、官民連携という視点では、現在閉校となった中学校を活用して、民間団体が社会人をターゲットとした大学院大学の設置に向けた準備を進めています。人口減少の中で、新たに大学を創設するのかと思うかもしれませんが、社会人のリカレント教育としての大学院の位置付けは非常に重要です。様々な担い手が不足している地方にとっての人材育成拠点となるよう、官民連携で取り組んでいます。
3、現在、特に力を入れている施策と課題
窓口は市長直下の「未来戦略課」に一本化。いま民間に求めるもの
事務局:企業が白石市に提案したい場合、どこに持ち込めばよいでしょうか。
山田市長:令和8年4月に機構改革を行い、市役所内に新たに「未来戦略課」を設置しました。行政はよく縦割りだと言われてしまいますが、子育て、健康、観光など、分野を問わず、まずは一旦、未来戦略課でご提案を受け付けさせていただきます。政策の優先順位を決める段階から関わる部署です。ご提案から事業実施の可否までの期間は、正直、一概には申し上げられません。規模や対象者によりますし、本市も財政が豊かではありませんので、交付金や補助金を活用しようと思えば、国や県との協議も出てきます。ただ、どうしても実現したい案件であれば、前向きに検討させていただきます。
事務局:いま、とくに民間の力を求めている分野をお聞かせください。
山田市長:課題は自治体ごとに千差万別ですが、なかでも人口減少は、地方に行けば行くほど共通する大きな課題です。いかに持続可能な地域をつくれるかどうかということを焦点に、企業の皆様からのご提案をいただくことが、一番重要だと思っています。職員の働き方改革もそうですし、地域の担い手も、AIもそうです。「こういった技術で、ここも効率化できます」「ここは民間に任せてください」といったご提案は広くお聞きしたいです。それから、地域の公共交通問題も民間の力をお借りしたい分野です。過疎地域であっても、その土地を守っていかなければならない住民の方々がいらっしゃいます。安心して生活していただくためにも住民の移動に必要な足の確保は、切実な課題です。 どの企業も社業の発展を目指されているなか、いま企業に求められているのは、いかに社会や地域に貢献していくかだと感じています。社会貢献ができている企業は、社員の皆さんの自社に対する信頼度や誇りが全然違うんです。民間の皆様と一緒にやっていく分野も、業務量も、これからまだまだ増えていくと思っています。

インタビューを終えて。左から、本フォーラムエグゼクティブアドバイザー影山、山田市長、事務局長 大川
4、フォーラム事務局より
白石市の官民連携は、「行政も経営だ」という考え方に支えられています。赤字病院を民間に委ね、道の駅はPFI事業で進める。その一方で「丸投げは絶対にダメ」とモニタリングは手放さない。「距離感と緊張感」という言葉は、任せきりにされず、縛られすぎない関係の予告と言えます。 提案の窓口は未来戦略課に一本化されています。会員企業の皆様には、製品・サービスのご提案に加えて、他自治体での導入事例もお示しいただけますと幸いです。ご関心のある企業さまは、フォーラム事務局までご相談ください。
白石市公式サイト
https://www.city.shiroishi.miyagi.jp/
【お問い合わせ】 白石市 総務部 未来戦略課
〒989-0292 宮城県白石市大手町1番1号(市役所3階)
Tel 0224-22-1324
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